ドナルド・トランプの2度目の大統領就任から2カ月、アメリカと世界は絶望するに十分な彼の破壊的言動を観てきました。
ゼレンスキー大統領を叱責する《政治ショー》や、ガザ侵攻に抗議する活動を組織したコロンビア大学の学生が、トランプ政権の移民排斥、言論弾圧、国外追放という「衝撃と恐怖」に呑み込まれるニュース映像を観て、私は暗澹とした気分になりました。
・・・アメリカの民主的政治体制が壊れ、世界秩序も溶解する。
うろたえたり、悲観したりするだけでなく、トランプ大統領の再登場が示す世界のダイナミズムをもっと理解したい、と私は思います。
エズラ・クラインとファリード・ザカリアの対談*を聴き(読み)ながら、どうしても、日本のことを想いました。
*The Dark Heart of Trump’s Foreign Policy | The Ezra Klein Show (NYT March 1, 2025)
日本語の字幕付きで観ることができます。すごい! おもしろいな・・・
とてもまねできない。
《トランプ・ドクトリン》とはなにか? そんなものがあるとして。
「トランプ氏が長年支持していると思われる一貫した世界観が一つあると私は考えています。不動産開発業者だった彼が最初に出した広告は1987年のものでした。それは、日本がいかに米国を経済的に騙し、欧州がいかに安全保障にただ乗りして米国を騙しているかを訴える広告でした。そして、それが根本的に表しているのは、米国と欧州が過去80年間に築いてきた開かれた国際システムの拒絶なのです。」
「そこには第二次世界大戦後の国際システムの変革に関する中心的なポイントが抜け落ちている。つまり、世界で、裕福な、強力で、信じられないほど効果的な国になるために、領土は必要ないということだ。韓国を見てみよう。韓国は、一人当たりの国内総生産が北朝鮮の15倍ある。イスラエルを見てみよう。今では小さな弧島にある先進工業国となっている。・・・誰がたくさんの土地を持っているか知っていますか? ロシアです。」
二人はポイントをついて、トランプ・ドクトリンを解剖しました。それはトランプという個人の発言や行動、激情ではありません。
その本質は《パックス・アメリカーナ》を賛美する(高等教育を受けたリベラルな)エリートたちへの憎悪、攻撃と侮辱です。トランプは西側同盟を破壊し、ヨーロッパの社会民主主義や国家統合を軽蔑し、ロシアの戦争と独裁者を称賛しました。
最強の軍隊を持つアメリカが国際システムに縛られることを、トランプは嫌います。最強の経済、最強の金融市場、世界を支配するアメリカの多国籍企業やドルを、トランプは好みます。
アメリカに最も依存している国、カナダや日本を脅迫すれば、もっと良い条件で取引できる、と考えます。
アメリカに対して巨額の貿易黒字を出す。アメリカから製造業や雇用を奪うなんて、とんでもない!
ザカリアは国際システムの重要な意味を正確に指摘します。
「確かに、ヨーロッパ、日本、韓国などの国々は成長しました。しかし、米国は完全に世界を支配しました。なぜなら、これは典型的なプラスサムゲームだからです。私たちははるかに大きな世界経済、はるかに大きな貿易システム、膨大な資本の流れを作り上げ、その中心にいたのです。」
「ドルは世界の準備通貨であり、それだけでも私たちには信じられないほどの利点があります。私たちは、結局のところドルが準備通貨であることを知っているので、負債と赤字についてそれほど心配する必要がない唯一の国です。」
つまり、2国間の取引で圧倒的に優位にあるアメリカが、それによってもっと大きな利益を得られる、というトランプの直感はまちがっているのです。
クラインは問いました。
「定義されていないのは、アメリカにとって何がよいのかということです。国際貿易システムを解体することがアメリカにとってなぜよいのか。この世界を解体することがアメリカにとってなぜよいのか。」
日本やドイツが製造業を守ることは間違いだ、とザカリアは考えます。
「ドイツの状況を見てください。世界第3位または第4位の経済大国であるドイツは、第二次産業革命で行き詰まっています。彼らは何を作っているのでしょうか。自動車、化学薬品、工作機械です。デジタル経済に関する産業は存在しません。」
「19世紀や1920年代にしがみつこうとする考えは、うまくいきません。非常に費用がかかります。誰もそれを成し遂げることができませんでした。」
「技術革新の時代に損をする人々が救済されるよう、もっと多くの再分配を行うことです。しかし、1950 年に戻れるという考えは、まったくの狂気です。」
19世紀型の領土拡大や資源をめぐる帝国間の世界分割も、答えにならない。
むしろトランプへの支持は、ロシアのプーチンや、ドイツの極右政党AfDなど、グローバルなイデオロギー闘争の一部です。
「1870 年代から 1880 年代にかけて、ヨーロッパの 3 大保守派君主、ロシア、オーストリア・ハンガリー、ドイツが結集し、三帝同盟を結成した時期がありました。」
「彼らが集まったのは、1848年の革命後にヨーロッパで自由主義が台頭することを恐れたからだ。この3人の保守的な君主が自由主義の波を抑えるはずだった。」
米国にとって正しい哲学は何か。「一連の取引としてではなく、一連の関係として捉えることで、80年間にわたりシステム内に同盟構造を構築してきた哲学こそが正しいと思います。」
ザカリアはそれを、信頼、と考えます。
トランプの「すべてが、19世紀の現実主義を思い起こさせます。」
「そして、人々がその世界について忘れていることは、その世界が絶え間ない戦争と大規模な人権侵害の世界だったということです。当時、富裕国は貧困国について、植民地化しよう、搾取しよう、国民を奴隷にしよう、と考えていました。」
トランプにも良い点があります。
《アメリカ・ファースト》は、ヨーロッパや日本、世界に、アメリカに依存した戦後秩序が終わったことを確信させました。
19世紀の帝国を再建するのではなく、デジタル化し、多極化する世界に、ふさわしい国際協調を築く必要があります。
日本の民主主義も、確実に、変容しています。
新しい社会制度や国際秩序に向けて積極的に革新を問えない政治が続いたことで、日本の若者にも、強権指導者への共感や支持が広がっているのでしょうか。
