トランプがゼレンスキーを責めて、「おまえのせいで第3次世界大戦になるぞ」と脅したのは、プーチンと協力する自分の姿勢を(思わず)表したものでしょう。
トランプ・ドクトリンと《マール・ア・ラーゴ合意》を考察した論者たち*は、さまざまな未来を展望しました。
ジリアン・テットのほかにも、マーチン・ウルフ、ラグラム・ラジャン、アダム・トゥーズ、ブラッド・デロング、ジェフリー・フランケル、バリー・アイケングリーンなど、多くの論者がこの構想について言及しました。私が目にした考察を末尾に示します**。
トランプ政権の政策は全くのカオスであり、それぞれが対立し、矛盾しており、多くは経済のロジックを無視している。無意味な政策を、まるで長期的な戦略が背後にあるかのように議論し、(結果的に)正当化するのはまちがっている。と、デロングは考察することを否定します。
しかし、トランプの気分や頭の中ではなく、これらの混乱と破壊の向こうにある世界を考えることは重要です。
ジリアン・テットの論点の1つは、トランプ政権内に、ドルをめぐる対立と矛盾がある、ということです。
MAGA派はドル安を望む(アメリカ製造業の復活と労働者階級の雇用・賃金改善)。他方、富裕層・資産家、そして、グローバルな市場統合に依拠するテクノ・リバタリアン(イーロン・マスクなど)は、ドルによる支配体制の維持・強化、強いドルをめざす。
高関税と貿易戦争で、(一時的に)ドル高が進むかもしれないが、国際的な合意によってドル安を誘導することが考えられる。
1985年のプラザ合意がそうだったように。
少なくとも、ベッセント財務長官や大統領経済諮問委員会のミラン委員長は、長期的に、不均衡を是正できる国際システムへの再編成を狙っている。
意外に思ったのは、この発想の起点がマイケル・ペティスである、という指摘です。マシュー・C・クレインとの共著は訳されており、以前、興味深く読みました(ただし翻訳はずさんです)。
ペティスは、中国とドイツの経常黒字を厳しく批判しました。両国の外貨準備(アメリカ国債保有)とアメリカの経常収支黒字とを結びつけて、その原因が中国とドイツの国内政策の失敗にある、と主張します。
もっと国内需要を刺激するべきであるのに、ドイツは債務増大(とヒトラー)を抑える神話に囚われ、中国は共産党支配の成功体験(各地の輸出部門で黒字を重ねる統治者間の競走)によって、ともに労働者や市民を貧しくしている。
「貿易戦争は階級闘争である。Trade wars are class wars.」
貿易不均衡の、市場による柔軟な調整、解決策を拒否して、両国支配者の国内政治・階級支配を維持するゆがんだ発想が、アメリカへの資本流入と不当なドル高(そして脱工業化、地域コミュニティーの崩壊、労働者階級の貧困)につながった。
その解決には、もし彼らが方針を変えないなら、アメリカ政府が資本流入に対して懲罰的に課税するしかない。と、ペティスは主張しました。
マーティン・ウルフは異なる視点を示します。
《マール・ア・ラーゴ合意》は、言われているようなプラザ合意より、1971年のニクソン・ショックである、とウルフは考えます。
アメリカのドルが国際通貨であることは、必ず、金との交換でパニックを生じるだろう。
そう予言したのは、ロバート・トリフィンでした。アメリカの経常収支赤字が国際通貨ドルの供給に必要であり、世界貿易が拡大する中で、それは必ず危機に至る、と考えたからです。
ニクソンショック後、為替レートの調整は新しいルールに向けて国際合意を模索したものの失敗し、放棄されました。
それが現在の変動レート制です。
石油危機。国際収支不均衡。インフレ(そして、スタグフレーション)。ボルカーの高金利。債務危機。繰り返される金融危機とその波及。
他方、
中国の台頭、アメリカの金融市場とIT革命による高成長、グローバリゼーションが進みました。
もしミランが(政権成立前ですが)提案したように、ドル安のための為替市場介入を、日本や中国との国際協力で行い(実際は脅迫でも)、
しかも、
アメリカ政府の赤字を支える財務省の債券を、長期債券に転換し、友好国が安定的に保持するよう求める(そうでなければ安全保障、核の傘を与えない)なら、
むしろドルが国際通貨の地位を失う歴史的瞬間に近づくかもしれません。
国際金融市場の視点では、望ましい為替レートを合意することに否定的な意見が圧倒的です。
グローバル・サプライ・チェーンにおける分業も、為替レートの変化によって短期的に調整できるものではありません。
金融市場の一つのシグナルとして為替レートは機能しており、経常収支の不均衡や貿易対立を解決する手段にはならないのです。
今は、トリフィンでも、ペティスでもない、と。
為替レートは、金融市場における取引、民間資本移動の動向によって大きく支配されています。
その意味では、単一の共通通貨を利用することが望ましい地域と、そうした通貨圏の間での緩やかな安定化(ドル安とドル高)を誘導することが重要でしょう。
パニックにおいては、指導的な金融市場の監督者、中央銀行の総裁たちが協力して行動します。
トランプが《マール・ア・ラーゴ合意》で、こうした長期戦略をえがく政治指導者になる? いいえ、決してそうは思いません。
混乱を批判したデロングは、コラムの最後に書きました。
ロナルド・レーガン大統領の2期目が思い出される。イラン・コントラ事件後、ホワイトハウスは1987年2月、ハワード・ベイカー元上院議員を首席補佐官に任命すると発表した。彼は「公正」「誠実」「まとも」な公務員として「即座に信頼」を得た。彼の任命はレーガン大統領にとっても国にとっても良いことだった。それ以降、レーガン大統領は公の場に姿を現し、握手し、スピーチを行うが、ベイカーが行政府を運営した。一言で言えば、彼はアメリカの摂政となったのだ。
トランプ政権の2期目にも、同様の取り決めが期待できる。唯一の問題は、そのような役割を果たす意志のある、そしてもっと重要なことに、その役割を果たす能力のある、人物を見つけることだ。
*以下の考察を読みました。Google翻訳でおおむね読めます。
● Gillian Tett, What a Mar-a-Lago accord could look like, FT March 7, 2025
● Kenneth Jacobs, America’s Faustian Trade Bargain, PS Mar 10, 2025
● Raghuram G. Rajan, Trumponomics’ Exorbitant Burden, PS Mar 11, 2025
● Carla Norrlöf, Trump, Bitcoin, and the Future of the Dollar, PS Mar 11, 2025
● Martin Wolf, Will anybody buy a ‘Mar-a-Lago accord’? FT Mar 19 2025
● Chartbook 361 Flooding the zone: The first 54 days of the second Trump administration and the end of the world as (we thought) we knew it.
Adam Tooze Mar 15
● Are tariffs on money next? FDI in China collapses. A suicide in Shanghai & the Soviet origins of scientific history.
Adam Tooze Mar 15
● Chartbook 363 Stockholm syndrome in Mar-a-Lago: The belief that “something must be done” and the sanewashing of economic policy in the age of Trump
Adam Tooze Mar 19
● J. Bradford DeLong, Rescuing America’s Economy from Trump, PS Mar 20, 2025
● Jeffrey Frankel, Is Trump Engineering the Decline and Fall of the Dollar? PS Mar 20, 2025
● Barry Eichengreen, Can the dollar remain king of currencies? FT March 22, 2025
● フィデリティ投信
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