• 01/31/2026

静かな森と都市の明かり・・・ グローバルな政治経済秩序を考える

新しい平和と繁栄の条件。国境を超えて、市民にふさわしい秩序を築く。  グローバルな政治と経済のダイナミズム、国際政治経済学を学ぶ人のために。

4 トランプ関税 脱工業化・地域経済・新保守主義

トランプ関税は、その毒々しい不満、底なしの愚かさに尽きる。時間がたてば消滅する、と考えるのは、まちがっているかもしれません。
そう想ったのは、私が日本の国会質問と政府の答弁、少子化、過疎地域、人口減少、社会保障の負担、地方創生などに関する論争を聴いていたからです。

オーレン・キャスとドウザットの対談を観てください。

「先週の《解放記念日》は、国際経済システムの再構築に向けた取り組みにおける一種のD-Day(ノルマンディー上陸作戦)となりました。この再構築は、産業空洞化と米国にとって年間1兆ドル規模の貿易赤字につながったシステムの不均衡に対処するために、切実に必要とされています。」

Video: Opinion | The Case for Giving This Trade War a ChanceOren Cass argues tariffs are worth it.www.nytimes.com

私は、ドナルド・トランプ大統領が示した関税引き上げの「解放宣言」に、世界の貿易システムを改革する長期的な戦略が隠されている、とは思っていません。
彼が、内政・外交で自分の圧倒的な権力を行使するたびに、大きな満足感を示す(ように見える)のは、人格的な偏向によるものでしょう。
関税が大好きで、複雑な説明は理解せず、聴きたくもない。
アメリカに対して大幅な貿易黒字を出す国は、不公正な手段で市場を歪めた、これは詐欺である。アメリカはこれまでずっと搾取されてきた、とトランプは考えます。
彼らの不正行為の半分を「相互関税」とし、また、アメリカ経済再建のために世界が負担する10%のグローバル「関税」を課す、と。

キャスによれば、そこには世界貿易システムとアメリカに関する3つの重要な目標がある。
1.巨額の貿易赤字と、その社会的な影響を逆転させる。
2.中国の台頭を抑え、覇権をめぐる競争に勝利する。
3.アメリカ経済再生に向けて、世界の負担で財政赤字を埋める。

目標1について、キャスは正統派貿易理論も、新自由主義も、あるいは、クリントン=オバマ政権を支えたリベラル派のエコノミストたちも批判します。

経済がGDP一人当たり所得で測って成長したことを、自由貿易やグローバリゼーションの成功、とみなすことはまちがっている。
その過程で、巨大都市の金融サービス部門に富が集中した。しかし、製造業が支えていた地方経済やコミュニティーはそのコストを強いられたのだ。
安価な輸出品に頼る発展途上諸国、特に、中国の極端な成功は、世界貿易システムが均衡を維持し、調整するメカニズムを破壊している。

富を集中する金融・サービス部門の雇用拡大は、いくつかの巨大都市にしか適していない。
アメリカ全体の雇用と富をもたらす活動は、長期的にみて、地理的に再分配されるべきだ。そうすることで、労働者の安定した雇用と所得上昇、地域コミュニティーを取り戻さなければならない。
そのために、企業がアメリカ国内にもっと投資できるよう、一定の水準で関税を維持し、また、将来の時点で高くなると予告ことが有効である。

もちろん、製造業と地域雇用の復活には、関税だけでなく、産業政策があわせて行われるべきだ。
しかし関税は、方針転換を促す衝撃を与える点で意味があり、また、議会を通じて決まる産業政策よりも、市場メカニズムを介して迅速、柔軟に作用する点で優れている。

目標2は、中国に対して特に高い関税率を課すことを意味します。それはオバマ大統領がTPPによって実現しようとした中国包囲網の再現です。

ところが、トランプ関税は同盟諸国にも同様に課されました。イギリスも、EUも、日本も。
同盟国のとまどいと不安、恨みは、長く消えません。
これでは中国包囲網どころか、EUが中国に接近して、反トランプの自由貿易圏をめざすようになるでしょう。
キャスは、同盟諸国に対する丁寧な説明と関与を求めています。

トランプは、特にアジア諸国に、米中の覇権争いにおける二者択一を迫ります。
キャスの主張は明解です。

「デカップリングは極めて重要です。なぜなら、私たちが懸念しているのは中国への過度な依存だからです。
強力な産業基盤なしには、強力な防衛産業を維持することはできない。
もし基本的なものをすべて失ってしまえば、サプライチェーンの最上流で優位性を維持できるとは到底思えません。」
「私の希望は、米国を中心とした大規模な経済・安全保障同盟を築きたいということです。その同盟国、もちろんメキシコとカナダ、そして他の中核同盟諸国との間では、非常に低い関税を維持したいと考えています。」

しかし、日本も含めて、韓国、オーストラリア、ASEAN、インドは、こうした二者択一を最も避けたいのです。
中国の急速な成長と巨大な需要を取り込みながら、中国の地域的覇権や国際秩序の再編には反対する。
中国の経済力と軍備増強が、台湾から周辺地域にまで深刻な脅威となり、再編圧力となっています。アメリカとの安全保障同盟を維持することで、中国との市場統合の影響を、ようやくバランスできるのです。
トランプの関税や防衛政策は、そのような矛盾をはらむ私たちの姿勢を前提に、脅迫してします。

目標3は、グローバリゼーションの逆転を目指す、新しいグローバリズムです。新しい帝国主義、と呼ぶべきかもしれません。

アメリカの製造業や衰退地域の復活、労働者の生活改善を、広く世界が負担するべきだ。トランプの政治権力の基盤、MAGAの感覚は、このメッセージにあります。
それゆえ、キャスは10%のグローバル関税を支持します。

パックスアメリカーナは、NATOとブレトン・ウッズ体制によるリベラルなものから、より略奪的なものに変質しました。
アメリカがめざすのは、ドルによる通貨・金融システム、世界からの資本流入、インターネットを介するグローバルなデジタル経済の統合と支配、技術をめぐる知的所有権とアメリカ企業の独占的利益、サービス貿易ににおける大幅な黒字の強化です。

しかし、関税は貿易赤字と財政赤字を、関税収入によって解決できるのか?
大幅減税や連邦政府解体を進める共和党やトランプ支持者が、そのようなロジックでトランプ関税を正当化するとしても、それは根本的にまちがっています。
だれも、国境の壁を高くすることで豊かになれないし、より平等にもなりません。

また、資本流入が問題なのか? ドルの役割、ドル高は問題か?
トランプ関税でドル建債券市場からの資本逃避が起きた。アメリカにも新興市場型の金融危機、「トラスの瞬間」が訪れる?
トランプ関税は、マール・ア・ラーゴ合意のような、グローバル資本市場の再編を含む、経済=安全保障同盟の形成に結びつきます。

多くの目標のなかで、最後に残るのは、産業空洞化の逆転、安全保障とデカップリングでしょう。グローバリゼーションと不平等の拡大は、所得再分配、地域・社会政策の強化を求めています。
しかし、製造業の復活は解決策にならない。雇用に占める割合は歴史的に低下し続けている。ハイテク化、AI・ロボットによる再工業化が必要だ。
白人労働者や「失われた世代」の所得、地方における雇用の問題は、その結果、解決するだろうか?

教育やインフラへの積極的投資。地方創生論を想います。

貿易収支の均衡化メカニズムが壊れている。これに対する「ショック・セラピー」である。
1981-82年のレーガンによる日米貿易交渉が成功例だ。
自動車輸出の自主規制と、日本のトヨタによる対米直接投資。

トランプ関税への批判は、 ”too far, too fast, too big” である。
日本型交渉に、中国はなじまない。
企業が生産調整するには数年におよぶ時間がかかる。確実性、予測可能性が重要だ。

トランプ関税は、戦略を示すなら、もっと有利な条件を得るための優れた交渉術である。
オーレン・キャス関税は、アメリカに製造業を復活させ、労働者の生活を改善する。
◆10%のグローバル恒久関税。
◆中国に絞ってもっと高い関税を課す。3年かけて60%に上げるルビオ案。
◆3カ月ですべての黒字国が改善案を示す。それから交渉を始める。

関税=通貨戦争の始まり

ドルによる支配(とアメリカの政策制約)を終わらせ、独占的なデジタル企業や金融ビジネスが無視する社会的・地理的不平等を、今や、明確な基準で規制し、改革しなければなりません。
その方法をめぐる論争が続くでしょう。
国際通貨制度と世界貿易システムの21世紀における新しい協調メカニズムが、ドナルド・トランプの破壊した瓦礫の中から、人びとの叡智と勇気を結集する形で誕生するかもしれません。

「トランプ氏の戦場が待っている。」

(参考資料)

  • Oren Cass, Stop Freaking Out. Trump’s Tariffs Can Still Work, NYT April 8, 2025
  • This Instability May Be Worth It. Here’s Why, NYT April 10, 2025
  • David French, Who Needs Free Trade When You Can Raise Your Own Chickens? NYT April 10, 2025

By onozn

大学で30年教えたあと、2025年春に定年退職しました。社会とのかかわりを模索中です。できることなら多くの街で仕事を経験したい。 「IPEの果樹園」を継続し、世界の政治経済に生じる変化を追いながら、本当に好ましい生活と社会の在り方を探そうと思います。

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