• 03/18/2026

静かな森と都市の明かり・・・グローバルな政治経済秩序を考える

新しい平和と繁栄の条件。国境を超えて、市民にふさわしい秩序を築く。  グローバルな政治と経済のダイナミズム、国際政治経済学を学ぶ人のために。

講義10:ドナルド・トランプと国際通貨システム

[ note 2025年9月4日 14:55 ]

国際通貨システムは内外の不均衡に対する正しい政策に支持を与えます。

ポール・クルーグマンのサブスタックを読んでいると、スタグフレーションに関する記述がありました。

paulkrugman@substack.com
スタグフレーションの経済学、パート3
スタグフレーション政策のジレンマとFRBの独立性がなぜ重要か
ポール・クルーグマン
8月31日

「2008年の金融危機後の大不況時のように、インフレ率が低いにもかかわらず失業率が高い場合、FRBはフェデラルファンド金利を引き下げるべきです。フェデラルファンド金利を引き下げることで、FRBは銀行の融資コストを低下させます。これは経済における支出と投資活動を促進し、失業率を低下させます。」

「インフレ率が高く失業率が低い場合、つまり経済が過熱するリスクがある場合(2022年がそうであったように)、FRBはフェデラルファンド金利を引き上げるべきです。これにより支出と投資が減速し、インフレ率が低下します。」

しかし、失業率とインフレ率がともに高すぎる場合、つまり経済学者が「スタグフレーション」と呼ぶ状況では、FRBはジレンマに陥ります。雇用を支えるためにフェデラルファンド金利を引き下げれば、インフレが悪化するリスクがあります。インフレ対策としてフェデラルファンド金利を引き上げれば、失業率が上昇するリスクがあります。スタグフレーションには簡単な解決策はなく、リスクのトレードオフしかありません。

どうすればよいのか?

もちろん、一つの答えは、トランプ関税や移民労働者の大量収監・国外追放をやめることです。
しかし、この局面で、アメリカで始まるインフレと不況が、アメリカの対外赤字とドル安により、グローバルな金融パニックへ転化する前に、主要諸国が協力することです。


VovEUに載った論説は、国際政策協調を再生する試みを紹介します。

国際資本移動と変動レート制によって各国の経済政策が厳しく制約される、金融グローバリゼーションの時代は、資本規制と各地の社会制度改革を優先する政治的選択に向かうのではないか。

VoxEU / 19 Aug 2025
How Donald Trump should have tackled the US trade deficit
Vijay Joshi, David Vines

明解な記述なので、そのまま紹介します。
補足は[・・・]で区別します。

米国の巨額かつ持続的な貿易赤字を是正する必要がある。
米国の対外債務は現在、GDPの90%に達しており、持続不可能なほど増加している。将来の危機を防ぐために、貿易赤字を大幅に削減する。

政策の出発点は財政再建にある。財政再建は、関税または通貨切り下げのいずれかと組み合わせることができる。後者の方が望ましい。しかし、米国の場合、こうした通貨切り下げは、ある種の「マール・ア・ラーゴ通貨協定」が存在する場合にのみ実現可能である。
[1960年代の論争とニクソン・ショック。]

ジェームズ・ミードの国際収支に関する著書(ミード、1951)の考え方に立ち返り、トレバー・スワンが提唱し、マンデル、フレミング、ドーンブッシュが展開した考え方に立ち返って議論する。

マクロ経済の緊縮財政を伴わない関税では、この効果[貿易赤字削減]は期待できない。
為替レートが変動相場制である場合、関税が輸出を減少させると、これは、輸入需要の減少が為替レートを直接的に押し上げる傾向があるからだ。

国内経済活動の活発化に伴う金利の上昇は資本流入の増加につながるため、為替レートの増価も起こり得る。[つまり逆効果]
中央銀行は関税によって引き起こされた物価水準の上昇に対応して、金利の引き上げを強化する可能性が高い。

それゆえ米国のような完全雇用経済においては、関税政策が国内財への需要転換政策として成功するには、国内財への追加需要に対応できるだけの財政緊縮策が講じられることが条件となる。

通貨切り下げ[ドル安政策]は、国内財への需要転換と貿易収支の改善のための代替手段である。しかし、これにも財政再建が必要となる。為替レートが変動相場制の場合、インフレを招かずに通貨切り下げを実現する唯一の方法は、同時に財政緊縮策を実施することである。

[ミードがノーベル経済学賞を受賞したのは、内外の需給均衡を同時に達成する政策パターンを示したからです。アメリカのように、完全雇用(インフレ気味)で対外赤字のケースでは、内需を抑えながらドル安をめざす。]

ドルを弱めるには、他にも従来とは異なる方法がある。例えば、資本流入への課税(ペティス 2025、ペティス・アンド・ホーガン 2024、テット 2025)です。しかし、これは賢明ではない。国債市場への介入は、安全資産としてのドルへの信頼を失墜させるリスクを伴うから。

支出転換政策の一形態として、関税は通貨切り下げよりも悪影響を及ぼす可能性が高い。これには少なくとも4つの理由がある。
第一に、関税は輸入のみに作用するのに対し、通貨切り下げは輸入の減少と輸出の増加の両方に作用する。第二に、関税は効率性コストを伴う。米国の消費者は、より安価な海外の供給源から商品を入手するよりも、国内で商品を入手する方がより多くの費用を支払うことになる。
第三に、輸入関税は、保護されている輸入競合品が輸出品の生産に投入されるものなら、輸出の収益性の低下につながる。
最後に、輸入競合企業が外国との競争から保護される結果、米国経済の生産性は長期的に低下する可能性がある。

米国は中国やその他の黒字国からの過剰貯蓄の流入に抵抗できない、とする考察が見られる。 (e.g. Pettis and Hogan 2024, Pettis 2025, Martin Wolf 2025)
[黒字諸国は貿易黒字でドル準備を増やし、その過剰貯蓄をアメリカに投資している。その結果のドル高と低金利が、アメリカの過剰消費を促す。]
ウルフ氏の見解では、中国やその他の国での過剰貯蓄によるデフレの影響から生じる失業を防ぐために、米国の財政政策は拡張的であり続ける必要がある。

我々はこれに反対です。我々の答えは、上述の通り米国金利が低下するため、米国への外貨流入は以前の水準で継続することはない。外貨流入の減少こそがドル安をもたらす。
したがって、たとえ米国が上述のような単独行動を取ったとしても、適切な財政・金融政策の組み合わせによって、米国の貿易赤字は改善される可能性がある。

しかし、米国は大国であるため、米国の行動が世界に与える影響を分析し、諸外国がどのように対応するかを検討することが重要である。

世界にとって最良の政策協力は、米国での財政再建と同時に、中国をはじめとする一部の黒字国における総需要を拡大することである。そうなれば、中国をはじめとする国々からの需要増加が、これらの国々から米国への輸出超過分を吸収することになる。

ドル安によって米国国内の需要は輸入品の購入から国産品の購入へと移り、財政再建が行われても、国産品への需要が維持される。
このような協力的な合意に基づく成果こそが、「マール・ア・ラーゴ協定」が目指すべきものである。

そのような協力が実現せず、米国が単独で行動し、同時に海外の総需要が拡大しなければ、その結果は米国における需要と生産の低迷となる。そして、これは米国の輸入減少を通じて海外にも波及する。
米国の政策がもたらすドル安によって、外国へのこうしたデフレ効果はさらに増幅されるだろう。

このような状況下では、外国からの報復の危険が生じる。関税戦争と同様に、通貨戦争も起こり得る。
中国の金融当局、そして他の国の金融当局は、ドル安に抵抗し、財政緊縮政策の影響を米国に直接跳ね返す可能性がある。

米国の貿易赤字を大幅に削減するほどのドル安は、海外に重大な影響を及ぼすだろう。中国、日本、ユーロ圏といった主要国の反応は極めて重要となる。

1987年のIMF協定改正以来、世界は為替レート「ノンシステム」体制下にあり、各国は自国が選択した為替レート体制を採用できる。したがって、中国と日本がドル安に反応して米ドルに追随すると想像してみてほしい。[貿易不均衡の]調整は明らかに阻害されるだろう。
調整の大部分がユーロ圏に押し付けられるなら、ヨーロッパも抵抗する十分な根拠がある。

したがって、米国の貿易赤字を大幅に削減するには、主要国間のマクロ経済協力が必要となる(世界の他の国々は、主要通貨のいずれかに追随する可能性が高い)。

幸い、協定参加国のマクロ経済状況を踏まえれば、中期的な政策の適切な方向性は十分に明確である。

  • 米国では、財政緊縮と金融緩和が必要となる。
  • 中国では、公共消費と民間消費(投資ではない)の増加に加え、為替レートの切り上げが必要となる。
  • 日本では、家計と企業の消費増加策に加え、金融引き締めが必要となる。
  • ユーロ圏では、公共支出と民間支出(消費と投資の両方)の増加に加え、金融引き締めが必要となる。

政策協力の合意は、ドルの優位性にどのような影響を与えるだろうか?

ドルの優位性は、米国の公的債務と対外債務の不可避的な増加によって、大きなリスクにさらされている。
[しかし、ここで提案されている]ドル安は、世界的な不均衡の是正に役立ち、ひいては米国を含む世界経済のマクロ経済基盤をより安定したものにするよう意図されたものである、と市場に説明されれば、市場はこれを必要な措置として受け入れる可能性が高い。

ドルの優位性は、いずれにせよ時間の経過とともに失われるが、急激ではなく、徐々に起こるだろう。


こうして、Eichengreenなどが予想する、ドル、ユーロ、人民元など、複数の通貨を基軸としたシステムに移行します。

マクロ経済の不均衡を主要諸国が安定的に調整する国際通貨システムに、私は賛成です。ドナルド・トランプの破壊と脅迫の先に、各地の平和と繁栄の条件が制度化される時代が来るでしょう。
これはその基礎をなす見通しです。

By onozn

大学で30年教えたあと、2025年春に定年退職しました。社会とのかかわりを模索中です。できることなら多くの街で仕事を経験したい。 「IPEの果樹園」を継続し、世界の政治経済に生じる変化を追いながら、本当に好ましい生活と社会の在り方を探そうと思います。

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