• 01/31/2026

静かな森と都市の明かり・・・ グローバルな政治経済秩序を考える

新しい平和と繁栄の条件。国境を超えて、市民にふさわしい秩序を築く。  グローバルな政治と経済のダイナミズム、国際政治経済学を学ぶ人のために。

6 反トランプの集団的報復関税がふさわしい

たとえトランプ関税が、その動機や目標において、なにか意味あるものを示唆できるとしても、トランプが脅迫をくりかえす道具にすることは許せません。

報復関税は、自国を傷つけるだけであり、避けるべきだ、という主張に何が足りないのか?
2人のすぐれたエコノミスト(Anne O. Krueger*、Paul De Grauwe**)が反トランプの報復関税同盟を唱えました。

クルーガーは、貿易を決めたのは公平なルールではなく権力者だった、と認めます。トランプは例外ではなく、権力者の常態なのです。
しかし、アダム・スミスとデイヴィッド・リカードがそれを変えるロジックを示しました。

関税は輸入業者のコストを引き上げ、生産を高コスト国に移転させ、イノベーションを阻害し、独占と腐敗を助長します。スミスの保護主義の危険性、予測可能な経済政策の重要性、そして法の支配に関する洞察は、徐々に広く受け入れられるようになりました。
(トランプ大統領の行為は)WTO規則の精神と文面、そして貿易相手国間の平等待遇という基本原則の双方に著しく違反するものである。また、長年にわたる米国のコミットメント、そして第二次世界大戦前に確立された二国間関係における法の支配から権力の行使へと明確に逸脱している。

Anne O. Krueger*

どうするべきか? クルーガーは主要諸国の行動を求めます。

トランプ大統領が依然として妥協に応じない場合、他の国々が主導権を握り、WTOの原則を遵守しつつ米国から独立して活動する新たな貿易同盟を結成すべきだ。米国は世界人口の5%未満、世界輸出の約9%を占めている。こうした連合は、紛争解決を促進する国際貿易機関を通じて連携し、米国の交渉力を弱めることができる。「Minus US Trade Organization 米国抜き貿易機構(MUTO)」とよべるだろう。

Anne O. Krueger*

またデ・グラウウェは、さらに、アメリカ経済とトランプ政権の弱さを強調します。

(1)貿易と生産における将来の混乱への懸念は、株式市場、債券市場、そして為替市場に急速に波及した。米国金融システムの根本的な弱点は、株式市場の大幅な下落により、レバレッジが高く、規制がほとんどないヘッジファンドが流動性を求めて奔走し、資産、特に国債の大量投げ売りにつながる可能性があることだ。パニックの可能性こそが、米国経済を他国よりも脆弱なものにしている。

(2)トランプ氏の大言壮語は根本的な弱点を隠している。関税が億万長者の友人たちの事業利益を脅かした時、彼は屈服した。

トランプに強い圧力をかけるには、いかなる交渉も拒否し、相応の報復措置を講じることです。十分な数の国がこのようなアプローチを取れば、米国は孤立する。米国は世界貿易のわずか15%を占めるに過ぎないため、残りの85%を占める国々は、協調して対応することです。

Paul De Grauwe**

ここには、貿易自由化の政治的アプローチと、集団行動の問題があります。

(第2次世界大戦後)関税削減交渉において、各国は相互主義的な議論を用いました。交渉のテーブルに着く他の国々が自国の関税を削減すれば、自国も削減する、というものです。こうして各国は関税削減を支持する輸出業者による国内ロビー活動を形成し、輸入代替セクターからの反対を克服するのに貢献しました。

Paul De Grauwe**

集団行動の問題を解決するには、政治的リーダーシップが必要です。中国は既に米国製品への相互関税でその道を示しています。もし欧州連合(EU)が加盟すれば、米国に甚大な損害を与えるほどの影響力を持つ2国(圏)の指導力が示され、他の国々も連合に参加するインセンティブを持つでしょう。そうすれば、トランプ政権はさらに孤立し、米国経済へのダメージが最大化し、世界へのダメージは最小限に抑えられるでしょう。

Paul De Grauwe**

トランプは屈するだろう、と2人は考えます。

支持率が下がったという報道を「フェイクニュース」とみなし、ローマ教皇の後継者選びに寄せた軽薄で侮蔑的な投稿を楽しむような人間が、アメリカの政治・経済・軍事における権力を握っています。

ドル価値の下落について「トラスの瞬間」、関税引き上げで棚が空になるならクリスマスのおもちゃを減らせばよい、とこたえる「マリー・アントワネットの瞬間」が問われています。(注)

「ボストン茶会事件」に始まったアメリカ独立と民主主義の要求が、今や、グローバルな世界市民議会を招集するよう求めているのではないか?

そして同時に、世界の通貨・貿易システムが秩序を回復する、というのは、世界金融危機や《ブレグジット×トランプ》が示す人々の怒りに対する正しい答えではない、と思います。

***

NHK仙台が制作した「雪国」5/5を観ました。雪と東北の深いつながりを描く映像詩。

毎年1月末、羽後町(うご:秋田県南部)で行われる「花嫁道中」。

雪の中で育つ不思議な野菜、雪菜(ゆきな)は、米沢(山形県)で江戸時代に栽培が始まった伝統野菜です。

「雪菜を栽培するなんて、効率が悪い。頭が悪い。
自分はそう言います」と語る人が、笑顔で、その作業を説明します。
でも、これが「うまい。・・・うまい。」

豪雪地帯、小国(おぐに:山形県南西部)。
小国の長い冬を生かして行われてきたのが「つる細工」。雪が降る前に森からいただいた植物のつるを使い、春先からの仕事で使うかごを編んできました。

「冬は長いから。退屈じゃ。何もないから。」
しかし、「つる細工を覚えてから、ときがたつのを忘れた。
・・・冬は楽しい。」

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自由貿易は神聖な原理や目的ではなく、豊かで幸せな社会を実現するための一つの手段です。

観光サービスの輸出が地域の経済活動をゆがめ、経済資源を枯渇させることは、「オランダ病」や「石油の呪い」ではないですか?
米不足の解消に、アメリカからのコメ輸入を増やすことが解決策になるのでしょうか? 慎重に問う姿勢につながります。

都市だけではない、人びとの幸せを求めて、世界政治の誕生を促します。

(参照)
* Anne O. Krueger, Trump’s Tariff Chaos Could Reverse 80 Years of Economic Progress, PS Apr 23, 2025
** Paul De Grauwe, The Quick and Easy Way to Put Trump in His Place, PS May 1, 2025
*** NHK仙台「雪国」https://www.nhk.or.jp/sendai/info/articles/310/005/83/

(注)トラス・ショック、あるいは、トラス・モーメント。2022年、財源を示さないトラス首相の減税案で債券価格急落、金融機関による政府債券投げ売り、ポンド安、イングランド銀行の緊急介入を要した。
マリー・アントワネット(身分の高い女性)が、フランス革命において物価高騰や食糧不足に対する民衆の不満を理解できず、パンが無ければケーキを食べればよい、と言った。それは、歴史的事実ではなく、評論の言葉として多用される。

By onozn

大学で30年教えたあと、2025年春に定年退職しました。社会とのかかわりを模索中です。できることなら多くの街で仕事を経験したい。 「IPEの果樹園」を継続し、世界の政治経済に生じる変化を追いながら、本当に好ましい生活と社会の在り方を探そうと思います。

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